エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》

 タクシーに乗った弥生は、


「しばらく世田谷方面に走って、いったん公衆電話で停まって下さい。」

と言った。

「ハイ。分かりました。」


 運転手はとりあえず、そう返事したが、

(珍しいな〜今時、ケータイを持ってないなんて。それに病院の中にはたくさん公衆電話があるじゃないか。)

と渋い面になったが、

(まあーいい。その間待たされるんだろうから金にはなるからな。)

と考え直して、

「でも、お客さん。公衆電話は今はなかなかないからちょっとグルグルしますよ。」

と嘯いた。

「ええ、でも出来るだけ短時間でみつけて下さい。出来ればあまり人通りのない所を。」

「了解しました。」

(なんだか訳ありの上客だ。)

 それから15分程走って、もうこの辺りが限界だな。と裏通りの公衆電話でタクシーが停まった。

「すいませんが、電話が終わるまで、待っていてもらえますか?」

「(モチロン)いいですよ。」

 弥生は急いで電話BOXへと向った。

 手には小さなメモを握り締めていた。