エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》

「ただいま。アナタは今はまだ退院も外出も出来ないそうよ。残念だけど。」

 予想通りの答えを持って、美佐子が戻ってきた。

 中条は一応、神妙な顔をしてみせて、

「そうか、ダメか。」

と、つぶやくように言った。

 美佐子は話題を変えようとして考えを巡らし、

「そうだわ!弘輔。さっき誰を見たの?おばさんって誰?」

と聞いた。

弘輔と中条はドキッとしたが、弘輔は、意外に上手に


「あっ!あれね。あれはうちにいつも果物を持ってくる人かな?」

(うまいぞ!弘輔。それなら、美佐子も配達に来たと思うだろう。)

「あらそう。お見舞いの籠でも持ってきたんでしょうね。」

と一応、言ってみせ、

(ウソがヘタね〜弘輔ちゃん。お鼻がピクピクしてるわ。アナタのウソつくときのクセ。いいわ後でゆっくり問い詰めてあ・げ・る。)

 美佐子は侮れない女だった。