エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》

(良かった。とりあえず時間稼ぎにはなった。)

 中条はそう思うと、弘輔に


「弘輔、参観で発表したか?」

と聞いた。

 弘輔は、さっきから話したくてうずうずしていたので、

「うん!したよ。それよりパパ。あのおばさんも、この病院で治療してるのかな?さっき見たんだ。」

と興味津々な顔で聞いてきた。

(弥生の事だ!やはり会っていたか。)

「ママに教えたけど、気付かなくて、おばさんタクシーで帰っちゃったけど…」


「おばさんの事、ママは知らないんだな!」

「うん。まだ知らないよ。」


「そうか、なあー弘輔。あのおばさんは可愛そうな人なんだ。だからみんなに内緒で病気を治してるのかもしれない。でもそれをママに言ったらママは怒るだろ?だから絶対にママには言ってはダメだ!男と男の約束出来るかな?」

 弘輔は、ママが一旦、怒りだすと、手の付けられない怖さを知っていたし、何より『男と男の約束』という響きに九歳の子供は引き付けられて、

「うん。分かった。僕達だけのヒミツだね。」

と言った。