病室を後にした弥生は、ツバの広い帽子を目深にかぶり、玄関のドアを出る時に、丁度、親子連れとすれちがった。

女どおしはまったく気付かなかったが、

 しばらく行った所で子供が気付いて振り返ると

「あっ!おばさん。」

と言った。

「おばさんってどこのおばさん?」

 美佐子が聞いた所で、中条の担当の医師をみつけたので、

「先生、お世話になっております。主人はどうですか?」

と、進み寄って行ったので、仕方なく弘輔は黙って、タクシーに乗り込む弥生の姿を見送った。