火菜は勇に貰ったペンダントの事より、久しぶりに会った母・望の事が強烈に残っていて、僅か数分の出来事だったが、映画のワンシーンのように1コマ1コマを思い出していた。

 一度は自分を置いて、ここから出ていった母。

 僅か6才でそれを無理矢理納得させられたようなものだった。

 あの時は、最後まで泣かずに母を見送り、その後、勇と二人になってから思い切り泣いた。

 段々と歳をとるにつれ、大人側の事情も少し飲み込めてきたけれど、『母に捨てられた』という心の傷はこれまで癒されずに今日まで生きて来たのだ。

 しかし、その母が自分たちの窮地を救ってくれた。

 弥生も勇の為に、自分の人生を投げ出して守っている。

 勇は弥生を許したと言ってたけど、私も許せるかしら…。

 いや、許したい。

 そして、火菜は

(ここを出たら、いつの日かお母さんとその家族に会いに行こう!)

と思うのだった。

 まだ、この時は勇も火菜も、源が捕まった事を知らなかった。

 明日の『脱出』のパスポートは切れて、美佐子の用意した『不法入国』の道へのカウントダウンとなるのか……。