その夏の虫と言われた源は、火菜の部屋で美佐子の出て行った後、黒沢がどう動くかを考えていた。

（恐らく、あの男もみつかって、俺が屋敷内に潜伏している事は百も承知だろう。ただ、騒ぎは起こさないだろうから、屋敷内を探し回る事はしないだろう。闇に紛れて、一旦、引き上げるしかないだろう。）

「火菜、美佐子たちは出かけたようだな。でも、黒沢がいるから油断するんじゃないぞ！」

と、声をかけた。

「うん。分かってるよ。」

　火菜は素直に返事した。

「本当はこのままここに居て、明日、告別式の最中に抜け出すのが、一番だが、まだ、準備しなきゃならない事があるんで、俺は夜になったら一旦、外に出る。そして、必ずまたここに来るから、いいか？」

「うん。分かった。じゃあ明日の昼過ぎに決行だね。分かった。勇にもそう伝えとく。そして、弥生さんはどうすればいい？」

　火菜は懇願するような目で源に訴えると、

「分かってる。それも何か策をみつけるから心配するな！」

　源は力強く言って火菜を安心させた。