エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》

 7月のうだるような暑さは、この日も例外ではなく、外の気温は35℃を越えていた。

(ワシワシワシ………)

と蝉の泣く中、見張りに立っている男たちの我慢はピークに達しようとしていた。

 朝から、礼服に着替えて全身黒ずくめだから余計に暑い。

 今すぐにでも、このネクタイをむしり取ってクーラーの効いた部屋で冷たい水が飲みたい。

 一体、この場所に立っている事に何の意味があるのだ!

 事情を知らされていない下の方の者たちは、今の状況をうらめしく思った。

 そして、一口でいいから水が飲みたい…。

と、ハアハアと肩で息をし始めた時に目の前に立つ人影があった。

 その男の手には、スポーツ飲料が握られていて、一瞬、仲間の差し入れかと思って顔を見上げたら、

 それは、源だった。

 皆これだけは言われていた。

「もし、源の野郎がきやがったらすぐにとっ捕まえて知らせろ!」

と…

「きやがったな。源、おまえの為に俺はこんな目にあってるんだ。」

 すると源は、

「そいつはすまないな。だからこうして差し入れを持ってきてやったぞ。お前、ヤバいぞ!多分、熱中症だ。」