エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》

(おっちゃん!!早く来て…)

 火菜は何もする事がないまま、時間だけが過ぎていく。

 時刻はもうやがて正午になろうとしている。

 中条の死をおっちゃんがまだ知らないわけはないのだが、厳重な見張りで中に入れないのだろう。

 すると、ドアがノックされ勇が中に入ってきた。

「勇!あの男が死んだのは知ってるよね!?」

 火菜が確認するように聞くと、

 勇は悲しそうな顔で、

「うん。知ってるよ。だから僕、火菜に大事な話しがあるんだ。」

 火菜は今すぐ聞いてやりたい気がしたが、見張りがいる事を警戒して、今はそれぞれおとなしくしていなければならないと判断した。

「勇、廊下に人がいるから後で聞くよ。奥様や弘輔が斎場に向かったら、安心して話しが出来ると思うから…それでいい?」

「うん!分かったよ。じゃあ暗くなったらまた来るね。」

 勇は素直に部屋に戻った。

 本当はこの時がチャンスだったのかもしれない…と火菜が気付くのは後になってからの事だったが…。