「ねぇねぇ!見てみて!!」


お気に入りのスマホの画面を、隣で勉強している彼に、邪魔をするように見せる。


「ここのクレープ屋さん、とっても美味しいらしいの!!しかも、カップル限定のスペシャルクレープっていうのがあるって!!」


目を輝かせて「行きたい!!食べたい!!」と主張する。


「………(コクコク)」


「え、いいの?やったーっ!!決まりっ!!じゃあ、今すぐ行こう!!」


放課後の図書室で、大きなこれで大好きな歌を口ずさみながら、机に広げた勉強道具を片付ける。


「…………(カキカキ)…(ツンツン)」


「ん?………ってぇぇええ!!だめー?なんで、さっきいいよって言ったのに……。」


彼は時計をみながら、指でツンツンとリズムよくノートをつつく。


「うっ…。て、テストが近いって分かってるよ〜。けど、クレープだよ?カップル限定だよ?」


「…………(ジー)」


「わ、わかりました……。」


しぶしぶ椅子に座り、先ほど片付けた勉強道具をもう1度机に広げる。


「…………(カキカキ)…(ツンツン)」


「ん?なに?………え、テスト終わったらクレープ奢ってくれるの!?やったぁーっ!!よし、勉強頑張ろ♪」


「………(ニコ)」


彼とクレープを奢ってもらう約束をして、1番嫌いな数学の課題とにらめっこする。

彼、朝比奈 頼(あさひな らい)は私、宮野 柚姫(みやのゆずき)の彼氏であり、声を出すことができない人である。

まぁ、別に病気とか障害って訳じゃないけど、自分で出すことができないらしい。

彼の古い友人によると、昔の彼の両親から虐待を受けていて、小さい頃から声を出すなとしつけられていたから、高校生になっても声を出すことが出来なくなったらしいのだ。


(今まで辛かっただろうな。きっと私じゃ想像のできない出来事が起きていたんだろうな。……けど、それでも、君の声が聞きたい…。)


彼に初めてあった時は中学生、高校受験のとき。

ちょうど席が隣同士で。

その時だろうな。彼に一目惚れした。

身長が高くて優しそうな感じで、サラサラな髪は少し目にかかっていて、休み時間、勉強してる時邪魔そうだったな。心の奥底を見透かされそうな目。

見事合格して、1年生のときクラスが離れてしまって話しかけることが出来なかったけど、2年生のとき、やっと一緒のクラスになれて、とっても嬉しかった。ぽろぽろ泣いちゃうぐらい。

それから、いろいろあって、勢いで告白したら優しく頷いてくれて。


(私、すっごい幸せものだな…。)


好きな人と付き合えるってとても幸せなことだとおもう。

だっていくら自分が好きだったとしても、結ばれるというわけではないから。


「………ねぇ、頼くん。」


「…………?」


「………大好き。」


「………(コク)」


「私のこと受け入れてくれて、ありがとう。」


「…………」ガタッ


「………頼くん、苦しいって。」


大きい手でよしよしと頭を撫でながら、ぎゅっと抱きしめてくれる。優しく、強く。


(………温かいな。)