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もう、何もいらない。

全部、全部、消えてしまえ。

腐りきった世界も、価値のない私も。





街が見える。

私が、16年生きた、街。


大好きだったおもちゃ屋さんも、何百何千と言葉を交わした魚屋さんも、

近代化にのっとって、みんな、無くなってしまった。




胸が締め付けられる。
一人取り残される感覚に頭がぐわんと歪んだ。痛い。苦しい。もう、いい。





あと1歩。たった、1歩。
何万、何億と地を踏んだ、この足で。
たった1歩、前に進むだけ。




「怖くなんか、ないし」




大丈夫、たった一瞬。

心の中で何度も唱えた。



大丈夫、大丈夫。





『生きて』

一瞬ちらついたあの顔は、

もうここにはいないのだから。