二週間と二日。

「やった。記録更新」

着ていたアルバイト先の制服を脱ぎ捨てて、ロッカーに乱暴に投げ込んだ。

苛々を和らげようと、嬉しくもないのにバイトの出勤日数の最高記録更新を喜んでみたが、誰もいない更衣室に棒読みの自分の声が響いただけで、苛々が和らぐことはなく……その上、今にも吐きそうなほど気分が悪い。

「……さいてー」

着替えを終えて外に出ようと扉を開け、直ぐに踏み出そうとしていた足を止めた。どんよりと暗い空を見上げながら、来る時には降っていなかった雨に小さく舌打ちをし、鞄の中に手を入れる。

大雨とまでは言わないが、家に着くまでにはびしょ濡れになる程度には降っている。

ため息を吐きながら、取り出した携帯を耳にあてた。

『──どうした?』

耳元で、低音の落ちついた声が響いた。予想外に早い応答に眉を跳ね上げる。

「……仕事中じゃないの?」

『お前からの電話だったら、どんな時でも出るよ』

少し笑いを含んだ優しい声。

「……バイト、辞めた」

『……そうか』

あたしの不貞腐れ気味の言葉に、明らかにホッとしたような、穏やかな声が返ってきた。

「……今から帰るから──」

──迎えに来てと。

そう言いかけた時だった。
電話の向こうでクスクスと笑う『あの女』の存在に気づいたあたしは、瞬時にその言葉を飲み込んだ。