しかし、私はホテルにあるレストランの前で事の事態を把握した。


「あのなぁ、夏樹ちゃん」


「なに? おじさん」


「ちょっと、一緒に食事して欲しい人がいるんじゃよ」


「どういう事?」

 一瞬にして私の浮ついていた心が、冷ややかに落ちた。

「わしの知り合いで、どうしてもてって頼まれたんだよ。良い人らしいから……」


 騙された……


「おじさん! 騙したのね。服買ってくれるなんて言うからおかしいと思ったのよね!」


「おい! 声が大きい。会うだけだから…… 頼むよ…… 美味しい物が食べられるから」


「絶対、お断りしますからね」


「わかったから……」


 おじさんはそう言うと、スタスタとレストランに入ってしまい、仕方なく私もおじさんの後に続いた。


 「いや―。お待たせしちゃって…… こっち、こっち」
 おじさんの手招きする方へ向かった。


 すると……


「いらっしゃいませ」
 レストランの店員にしては間の抜けたちいさな声、どこかで聞き覚えのある声に、私は恐る恐る顔を上げた。


 そこには、私が忘れる事がで出来なかった人の姿があった。