いつの間にか、留学から戻って三年が過ぎてしまった。



 きっと、彼は彼女と結婚しただろう……  
 いくらそんな事を考え、自分に言い聞かせても、前に進む事が出来ずにいた。


 さすがに、両親も男っ気のない私に結婚の心配をし始め、お見合いを勧めてくるが全て拒否していた。


 携帯が鳴り画面を見ると、横浜のおじさんからだった。

 おじさんは小さい頃から私を可愛がってくれていて、時々横浜へ呼んでくれる。
 また、遊びに来るよう誘ってくれた。
 勿論、喜んで行く事にした。



 横浜行きのバスから降りると、珍しくおばさんが迎えに来てくれていた。

「夏樹ちゃん」
 おばさんは私の名前を呼び手を振っていた。
 相変わらず、優しくて可愛らしい人だ……


「どうしたの? お迎えなんてめずらしい」

「たまには、夏樹ちゃんと買い物でもと思ってね。おばさんの所男の子ばっかりでしょ。女の子と買い物行きたくて」


「うん、行く行く!」


「それに、おじさんがね、たまには夏樹ちゃんに服でも買ってやりなさいって」


「本当に? やった―!」


 私は何の疑いも無く素直に喜んでいた。

 
 ショッピングモールへ行き、欲しかったセーターを買ってもらおうと思ったのだが、おばさんはちょっと高そうな店へと私を連れて行った。


「こんな高そうな店じゃなくていいよ」


「いいのよ、おばさんの友達のお店だから」


「へ―」


 おばさんと店員のお友達は、なんだか高そうなスーツを勧めてくるが、どうも気にいらない。

 私は、掛かっていたベージュのワンピースが目にとまった。
 腰の辺りが締まっていて、すその方がヒラヒラと、品がるのに可愛さもある。
 私がワンピースを手に取るとおばさんも気に入ったようで、試着を勧めてくれた。

 ワンピースを着て試着室を出ると、おばさんも店員さんも褒めてくれて、自分でもかなり気に入った。

 ちょっと高いが買ってもらってしまった。
 それに、靴とバッグまで買ってもらい、私は能天気にも気分が良く鼻歌など歌って歩いていた。


 いつもと変わらないおばさんの笑顔に、私はこの後起こる企みの始まりだとは気付かなかった……



 次の日、おじさんがお友達が経営している高級レストランへ連れて行ってくれると言いだした。
 めたったに行けないお店に、私は素直に大喜びしていた。


 おばさんの、せっかくだから昨日買ったワンピースを着ていたら? 
 なんて言葉に、私はかなり舞い上がっていた。



 寒くなると思った私の鞄の中には、白いマフラーがそっと顔を覗かせていた。