「そうかなぁ…って、

…それとも翔太くん、何か知ってたりするの?」


意味深な答えだったし、…何か、

そう思って逆にあたしは聞き返してみる。




「さぁね~、

でもね?樹は、誰も好きにならないなんてこと…

…無いと思うよ?」


あたしの頭をポンッと叩くと、そのまま美菜達がいる方へ歩いて行った。


…っ?




「え、それって、

樹は!…樹は誰かを好きになった事があるってことっ!?」


あたしは無意識に立ち上がってそう聞くと、翔太くんは一度振り返って、




言った。


「“好きになった事がある”じゃなくて、

樹は今も昔も、ずっと一人の女の子だけを“好きなまま”なんだよ?」


悪戯に笑ったその顔で。



…嘘、




「……っ、」


「あ、美菜たち来たよっ!

早くやっちゃおーぜ!!」


翔太くんはさっきとはまったく違う人みたいに、というか元に戻った感じで言うと、また再び前を向いて歩き出した。




けど、…


…けどあたしの胸は。





『“好きになった事がある”じゃなくて、

樹は今も昔も、ずっと一人の女の子だけを“好きなまま”なんだよ?』



この言葉が、頭から離れない。





「…おい、どうした?」

樹が心配そうにあたしの顔を覗きこむ。




「ううん…、何でもないっ」

上手く顔を見ることも出来ずに、上手く笑うことも出来ずにあたしは樹から目を逸らして美菜達の元へと向かった。



あの笑顔は、あたしだけに向けられたものじゃ、…無かったんだ。




そう思うと。何故か悲しい。