ぼくのセカイ征服

そんな事が頭を過ぎり、不安になった僕の心中を悟ったのか、スミレは僕に微笑みかけた。
そして。

「時任君。今日の埋め合わせはいつかきっちりとしてもらうから…」
「そのデートがお流れした恋人みたいな言い方は何だっ!?」
「無知ね、時任君。埋め合わせには、償い、という意味もあるのよ。」

へぇ。知らなかった。相変わらず博学なヤツだ。いつもコイツと話していれば、賢くなれるかも。
…命がいくつあっても足りなさそうだが。

「それにしても、時任君。少しは感謝して欲しいものだわ…」
「あ、ああ…ありがとう。」
「なんて心の篭っていない『ありがとう』なのかしら。それに、言葉だけで私が満足するとでも?」
「……」

金を出せ、というのか?まったく、コイツというヤツは。

「聞こえなかったかしら?じゃあ、もっと近くで。」

僕が対応を渋ると、スミレはふらふらと僕に近付いてきた。未だ手に持つ『何か』の輝きをちらつかせながら。
っていうか。
とりあえず、手に持っているそれをしまえ、それを。恐くて話もできないじゃないか。

僕の切実な思いを悟ったのか、それとも、僕の懇願が神に届いたのか、スミレは『何か』を元々あった場所に収めた。
今気付いたが、『何か』の正体は、何の変哲も無い、ただのペーパーナイフだった。
たかが紙を切る為の道具でも、使う人によっては凶器になるんだなぁ。
普通なら、凶器にしようと思う人はいないだろうが。凶器としての要素が、ただ先が尖っている事くらいしかない比較的安全な便利グッズだし。

そんな事を考えながら、僕はポケットから財布を取り出し、500円玉をスミレに差し出した。

「はい、どうぞ…っと。これで満足か?」
「…?これは何のつもりかしら?私が500円で買えるような安い女に見える…?」

もっと出せ、といいやがるのか。ええい、仕方無い!

「じゃあ、これで…」

僕は、さらに、500円玉の乗っかっている手の上に、なけなしの全財産の大半を占める千円札を追加した。
すると。

「もしかして、私が謝礼金を欲しがっているとでも思っているの?」
「えっ…!?」

思わず声が出てしまった。
…違うのか。謝礼金が欲しいわけではないのか…。じゃあ、一体、何を求めているというんだ、コイツは?