ぼくのセカイ征服

「２０秒よ…」
「え…？」
「２０秒あげる、と言っているの。私が２０数える間に私の視界から消えるか、それとも死ぬか…選びなさい。」
「何…だと…？」

急に覇気を失った男は、弱々しく、しかしそれでも、必死に、スミレが与える恐怖から脱する術を模索している様だ。
その証拠に、逃げるようなそぶりは全くといっていいほど見せていない。

「アナタ、日本語さえもわからないの…？早く立ち去りなさい…。さもなければ…」
「……」
「…仕方無いわね…。２０…１９…」

黙り込む男とは対照的に、スミレは死のカウントダウンを始めた。
その時。
男は息を飲み、『何か』の尖端が喉元に刺さらないように…出来るだけ体を動かさないように、ゆっくりと口を開いた。

「お前に…出来るのか…？」
「出来るわよ。」

即答だった。
そして、その直後。
『ぷすっ』っと、スミレの持つ『何か』が、男の喉元を軽く突いた。

「いつ…っ！」

一瞬の苦痛に、男の表情が歪む。
というか。
情けない事に、男は腰を抜かして尻餅をついてしまった。
細く紅い筋が、怯える男の首筋を伝う。

「何なら、めった刺しにしてあげてもいいのよ…？アナタが、自分が生まれて来た事を後悔するまで…ね。」
「う、うわあぁぁ〜！」

この上なく情けない声を上げ、男は辛うじて立ち上がると、足早に逃げていった。案外臆病なヤツだったんだなぁ。

…それにしても、恐ろしいヤツだ、『箭内 菫』。選択する言葉が恐過ぎる。さっきの『めった刺し』という言葉は、それ自体が異常なまでに極悪な響きを持っているしなぁ。こんな言葉、どれだけ相手を憎んでいても、口にするヤツはいないぞ、きっと。
もちろん、スミレは例外だが。事実、言っちゃったワケだし。
しかし…コイツなら本当にやりかねないな。
…いや、冗談抜きで、いつか本当にやってしまうんじゃなかろうか？