「あっ!すいません。ジロジロ見ちゃって...........。」
「いえいえ、色々こだわって内装揃えているので、よく見てもらえると、凄く嬉しいです。」
本当にこの人は、相手を気持ちよくさせる天才か?
私に、こんな話術があったなら、もっと仕事の成績を上げれるのに。
「はい。こちらの席へどうぞ。」
「ありがとうございます。」
少し高いバーカウンター用の椅子に、座りやすい様にエスコートする綾野さんは、正に外国の王子様の様で、手馴れた身のこなしは、人を不快にさせず、スマートに洗練されている。
(こりゃ、常連なっちゃうわ…...。)
「最初の一杯は、私からのプレゼントです。何に致しましょうか?」
「そんな.....悪いです!」
「何も悪い事はありませんよ?だって、これから常連になってくれるんでしょう?」
「えっ?」
さっきまでの丁寧な言葉使いを、少し崩して、悪戯そうに私の顔を覗く。
「プッ!フフフッ!!...........はい。そうですね!それじゃあ遠慮無く、モヒートお願いします!」
「かしこまりました。」
綾野さんは、オーナー兼バーテンダーもしている様で、何人か若い男のバーテンダーもいたけれど、頼む訳でもなく、自らシェイカーを取り出した。
流れる様な手つきで、シェイカーを振る姿に、見惚れていると、背後から聞き慣れた声が響いた。