「産まれて直ぐ亡くなってしまって...。あの頃は、どん底だったわね…。いつか、あの子も一緒に消えてしまうんじゃないかって、ずっと怖かったわ。それでもなんとか、仕事に没頭する事で立ち直ってくれて...。でもね、私には分かるのよ。あの子はまだずっと心に傷を負ったままなんだって。だから未だに、恋人さえ作らず、結婚もしないんだわ。でもね、あなー」


「すいません。.......失礼します。」


「えっ?もう?.....今、お茶を出すところよ?」


「すいません.....用事があるので。」

硝子さんの過去を知れば知る程、自分の存在意義が消失して行きそうで、目も合わせず頭だけ下げて、俺は逃げる様に玄関を飛び出した。

今にも足元から崩れ落ちそうになるのを、必死に堪えて、近くの縁石に腰を下ろした。


「ハハ.........足に力、入らないや.......。俺、何を期待してたんだろう.....バカみたいだ.....あの家には、もう、帰れないよ.........。」


現実を受け入れられないとは、こうゆう事か。

俺は涙一つ、出やしなかった。