「お疲れ様~。お先しま~す。」


「おっ?珍しいな?この時間に帰るなんて。」


「たまには早く帰ったっていいでしょ?私だってゆっくりしたいんだから。」


「あ~ごめんごめん!!どうぞ!!ゆっくり休んで下さ~い。」


「それじゃあ、ゆっくり休ませて貰いま~す!」


昼間の山口君の事も、少しだけ気になっていたけれど、それよりも私にはどうしても気になる事がある。

当然、蒼の好きな人が誰なのかだ。

干渉し過ぎだと分かってはいるけれど、今まで彼女さえ紹介された事も無いのに、急にそんな事を言われたら、相手がどんな人なのか、どうしても気になる。

そこで私は一つ、作戦を考えた。

蒼より早く帰って、蒼の好物を沢山用意する。

お酒も飲ませて、十分に機嫌を取った所で、好きな人の話を聞き出す。


「在り来りだけど...まぁ、やってみる価値はある。」


会社の一階に降りて、出口に向かって歩いていると、若い女の子の騒ぐ声が聞こえて来た。

受付の女の子達だった。

近付くにつれ、会話が耳に入って来る。


「蒼く~ん!!久し振り~!!旅行以来だね?!」


(蒼っ?!!! )


私は咄嗟に柱の陰に隠れた。


(つい隠れちゃったけど、どうして蒼がここに? )


そっと覗き込むと、楽しそうに受付の女の子達と会話をしている蒼が居た。

会話の内容は、遠くてよく聞き取れないけれど、私にとっては、いつもの光景だ。


(なぁ~んだ.....たまたま私を迎えに来ただけか。 )


柱の陰から一歩、踏み出した時だった。

もう一人の女の子が、蒼の隣に歩み寄って来た。