お葬式の日、私は蒼(あおい)を引き取る為に会社に有給を貰い、その足で親族の方に頼み込んだ。

唐突な話に、皆最初は驚いていたけれど、厄介祓いが出来ると思ったのか、何日か経つと蒼の遺産相続放棄という形で了承してくれた。

色々な手続きも同時に進行しながら、私は仕事もあったので取り敢えずマンションに戻って来ていた。

勿論、蒼(あおい)も一緒に。


「改めて自己紹介するね?私は荒川 硝子(あらかわ しょうこ)です。歳は言いたくないけど29歳、仕事はイベント企画会社の営業をしてます。名前は好きな様に呼んで?」


「…………」


「長旅で疲れたよね?あの部屋使って?空いてるから。」


「…………」


「取り敢えず入用な物は、次の休みにでも揃えるって事でどうかな?」


「…………」


何を言っても感情もなくただ頷くだけ、知っているのはただ16歳とゆう年齢と橘 蒼の名前だけ。


「この家の物は何でも使っていいから、遠慮しないでね?……て言っても気を使うよね……フフッ。」


「…………」


「緊張してるのかな?……じゃあ、一緒にお風呂でも入る?家ジャグジーあるよ?アロマキャンドルも点けよっか?」


勢い良くブンブンと左右に顔を振って私を見る真っ白い顔が、一瞬で真っ赤に色付く。

ここに来て初めての感情表現に嬉しくなる。


「あれ?恥ずかしいの?フフッ!」


蒼は真っ赤な顔を隠すように空き部屋に入って行った。


「……生きてたら葵もあんな風に育ったのかな……?」


生きてたら……なんて考えても仕方ない事だと思うけれど、そう思わずには居られなかった。

独身の身の上で、いきなりあんな大きな子を引き取るなんて、正気じゃない事は分かっている。

それでも、目の前で泣いている蒼を見捨てるなんて、私には出来なかった。

葵の身代わりにしてる事は分かっている。

私の身勝手であの子の人生を変えてしまったのは、きっといつか罰が当たるだろう。


分かっている……


分かっている……


それでも後には引けなかった。


「ただ自分が楽になりたいだけの癖に……」


ポツリと呟くと広いリビングに冷たく響いた。