「硝子(しょうこ)、悪いんだけど頼まれてくれない?」


夏の暑い日の日曜日、その電話が鳴った。

電話の相手は田舎の母。

珍しく掛けてきたと思ったら面倒事だ。


「え~嫌だよ…知らない人ばかりだし、私なんかが行っても、向こうだって困るだけじゃない。」


「そんな事言わないでよ~、お父さんが生前お世話になった恩師なのよ。お父さんの時も来てくれてるし、ちゃんと義理を返さなくちゃ罰が当たるわ。お母さんが行ければいいんだけど、腰が悪いの知ってるでしょ?とてもじゃ無いけど遠出は無理よ……それに、知らない人ばかりだから寧ろ都合がいいじゃない?ね?お願い!」


父が若くして亡くなって以来、そうゆう仏事は全て母がこなしてきた。

それでもこんなお願いをされると、少し切ない気持ちと共に、白髪混じりの母の顔が浮かんだ。


「……仕方ないな、分かったよ。取り敢えず行けばいいのね?長居は出来ないし、愛想良く話なんか合わせられないからね?」


「うんうん!それでいいから!供物は既に手配してあるし、香典だけ立て替えておいてくれる?」


「いいよ。香典くらい包める甲斐性あるし、お父さんがお世話になったんならそれ位するよ。」


「さすがキャリアウーマン!!頼りになるわ~!!」


「はいはい……その言い方ダサいからやめてって言ったでしょ?」


「ごめんなさ~い!じゃ、頼むわね?8月の3日だから忘れないでね!」


「はいはい、じゃーまたね。」


通話を切った足で、カレンダーにマジックで丸を付ける。


「面倒だなぁ……。」


億劫なだけな予定が、久し振りに部屋のカレンダーを汚した。