終末から世界を救った勇者は
人々から讃えられた。

しかし、勇者は魔王を倒してはいない。

人々はそれに気づいていた。


魔王は城の中で空を見上げていた。
明るい晴天の空。

向こうでは明るい世界で人々が暮らしていた。


同じ空の下なのに、
城は閑散として暗い感じがした。


「やっほー!」

勇者がやってきた。
両手にたくさんのお菓子を抱えて。


「今日は花見に行くよ!」

そう言えばもうすぐ春だ。

城の周りの森の中で
勇者は光を放った。


すると色とりどりの花が咲いて
暖かい風が流れた。


「お前の魔法は光の属性か。」

「…レイア。」

「は?」

「私の名前よ。レイア。
あと、私の一番目の属性は雪よ。光は二番目なの。」

「…そうか。」


魔王は目の前の花に目を落とす。
勇者は肘で魔王を突いた。

「あなたの名前は?」

「アーシュ」

「アーシュね。」


勇者は嬉しそうに笑う。

「私ね、人々には勇者って呼ばれてるの。
勇者だからって友達もできなかったし、
魔法学校でも特別クラスになっちゃって
周りは敵視してくる人ばかり。
名前を呼んでくれる人なんて、先生ぐらいしかいなかったのよ。」

「そうか。」

魔王は特に興味なさそうに笑う。


「あなたもそうでしょう?
アーシュって呼んでくれる人、いなかったでしょ?」


言われてみればそうだ。
部下がいた時も彼らには魔王様と呼ばれていたし、
関わった者は皆が魔王様と呼ぶ。

「だから、これから私たちは友達になるの。
お互いを名前で呼び合うのよ。」

勇者レイアは嬉しそうに微笑んだ

その笑顔に魔王アーシュも自然と笑顔になった。