「どれがいい?」



「え…でも、あたしあげてないよ?」



デパートの一階はすっかりホワイトデーモードだけど、当日だからか品物を結構売り切れなものが多かった。


あげてないのに貰うとかなんか申し訳ない。


繋がられていた手はデパートに入ってから離れた。
名残惜しいけど、繋げただけでも奇跡だ、と自分に言い聞かせる。



「誰もお前にあげるなんて言ってねぇよ」



ムッ、とした表情でぶっきらぼうに言い放ち、目の前にあったチョコレートを手に取った望夢。


…だよね。


ちょっとだけ自惚れてたあたしがバカだった。


泣きそうになるのを堪えて無理に笑って見せた。



「ですよねー、あんたはそんなに優しくないしね」


いつも通りな感じで言えたはずだ。


なのに、どうしてそんなバツの悪そうな顔するわけ?



「…俺はいつでも優しいし」



だけど、それは一瞬のことでもう普段の彼に戻っていた。



「は?どの口がそんなこと言えるんですかぁーっ!!!」



人差し指で彼のツンツン、と彼の男らしい胸を軽くつつく。



「一華(いちか)は特別なの。」



上から降ってきたのは、柔らかい声。


ハッ、として彼の方を見ると、優しく目を細めてあたしを見つめていた。