零度の華 Ⅰ


あたしはニヤリと笑う

あの時は冷静に見えても、心の中じゃ憤怒していたはずだ



だから、おかしな点に全く気付かない

冷静になったらすぐ分かることに気付かなかった時のあいつの表情(かお)を見たかった


手のひらに貼っている誰のものか分からない指紋付きシールを剥がし、ゴミ箱へ捨てる




『自分の指紋をそう易々と渡すわけないだろ』


「そうですよね」




警視庁から離れたところに置いた車に乗り込み、烏(クロウ)の運転でMIUNIT(ミニュイ)のアジトへと向かう



「最後に1つだけ聞いてもよろしいですか?」


『何だ?』


「あの忠告、どういう意味ですか?」


烏(クロウ)に視線を移すことなく、終始外を眺めて答えた



『そのままの意味だ。あたしのことにだけ目をやり過ぎると足元は留守になる。留守になれば掬われる。一点に集中し過ぎるな。簡単に言うと視界を広げろということだ』


「そんな、敵に塩を送るようなことして、情が移りました?」



その言葉にあたしは声を出して笑ってしまう