誰に声をかけられたのかは知らないけれど、人数合わせで来たんだろうな。わかりやすい。
「曲入れた?」
「……いや」
「歌わないの?」
「……き、緊張するから」
「あははそっか、人数多いしね。なんかタナベくんて歌うまそうな声してる」
息を飲むように、タナベくんがもう一度こちらを見た。ん? とわたしが首を傾げてみせると、一瞬交わったと思った視線がまたすぐに散ってしまう。
そのとき、ふと。
「……へただよ、」と呟いた彼の耳が、赤く染まっているのに気づいた。
「――で、うっかり有果のスイッチを入れちゃったかわいそうな彼はその夜有果に持ち帰られてありとあらゆる“初めて”を食い尽くされちゃったってわけよ」
「うわあ気の毒」
「そして驚くべきことに彼はいまだに有果と付き合っておるのだ」
「うわあ気の毒……!」
「いや気の毒ってなによ気の毒って」
土曜日の夜。
大学時代の友達と久しぶりに飲みながら思い出話に花を咲かせていると、いつの間にか貞操観念のネジがぶっ飛んでいた頃のわたしの話になっていた。
……あの歌がうまそうな声の男・田辺大地に出会ってから、もうすぐ3年が経つ。