「港くん、行ってあげてください」
「ありがとうございました」
頭を下げると、季蛍さんは両手をブンブンと横に振る。
「もー、やめてくださいよ」
ドアの向こうへ促され、もう一度お礼を伝えて隣の部屋へ。
「陽、ただいま」
朝よりも目が腫れている。
どれだけ泣いていたのだろうか。
だけど心なしか、陽の表情は朝よりも明るい。
「おかえり」
「遅くなってごめんね。帰ろうか」
「うん…」
「少し寝れた?」
「寝れた…大丈夫」
荷物をまとめてリビングへ。
「陽さん、良かったら持って帰ってください」
季蛍さんがくれた小さな紙袋を受け取る陽が、不思議そうに首を傾げた。
「ハーブティー、気に入ってくれて嬉しかったから」
「…くれるの?」
「はい、無理しないでくださいね」
「季蛍ちゃんありがとう…ッ」
「またいつでも来てください」
季蛍さんの安心感。
陽が唯一、俺以外で本当のことを言える場所。
嫌でも素直になれる季蛍さんの優しさ。
「帰り気をつけてよ」
「あぁ、ありがとう」
何も言わなくても状況を理解する蒼。
2人の存在は本当に大きい。
特に今の俺にとって。
…特に今の陽にとって。
「季蛍ちゃん 必死に手振ってて可愛い」
『おやすみなさい』と見送りしてくれた2人を振り返り、陽は笑う。
その笑顔が見られて、本当に安心した。
陽の大好きな笑顔が見られた。
もうそれでいい。それだけでいい。
*おわり*