おはようからおやすみまで蕩けさせて

「お前もうお終いだな」


昼休み、喫煙コーナーで出会った山本はそう言ってタバコの火を点けた。
「何が」と尋ねる俺に視線も向けず、フーッと空に向かって煙を吐いてる。


「合コンの話、悪妻にしてみた。てっきり血相変えて反対するかと思ったけど、全くそんな気配も無かったぞ」


ぎょっとして奴を見つめる。
山本は口先に咥えたタバコを離し、薄いグレーの煙を吐き出した。


「結実に言ったのか!?俺は行かねーぞと言っただろ!」


驚く俺を振り返り、奴はフッと意味深そうに笑った。


「別に合コンに出てお持ち帰りしろと言ってるんじゃないんだからいいだろ。…まぁお前ならお持ち帰りされたい女子は幾らでもいるだろうけどな」


「俺は行かないって」


「まぁそう言わずに来いよ。嫁の許可も出たんだし」


「結実がいいって言ったのか!?」


まさか、嘘だろ!?


「いいとは言わないけど駄目とも言わなかったよ。お前、見捨てられてんのかな」


ははは…と肩を揺らしながら笑う。
ぎゅっとタバコの先を灰皿に押し付け、山本のことを睨み付けた。


「文句があるなら俺じゃなくて嫁に言えよ。悪妻でも話くらい聞いてくれるだろ」


「悪妻じゃない、愛妻だっ!」


怒鳴り声が喫煙コーナーに反響した。

周囲の者達が振り返り、何事だ?という顔をしてる。