おはようからおやすみまで蕩けさせて

「おい、浬!」


喫煙コーナーで煙を吐き出していると、山本が血相を変えて飛び込んできた。


「お前、三下り半突き付けられたぞ!」


古めかしい言葉を叫ぶ山本の顔を眺める。
何も言わない俺に近寄り、その説明を始めた。


「お前んとこの悪妻、出勤してきたと思ったら暫くお前を預かってくれと言ってきたぞ!しかも自分の気が済むまでって!ずっと済まないかもしれないと叫んでた!」


一瞬ギクッとして奴を見た。
心配と言うよりも困るといった顔つきだ。


「いいのかよ!このままで!」


自分の部屋に居座られるのは嫌なんだろう。それでこんなに焦ってるんだ。


「…いいよ。結実がそれを望むならそうしてやりたい」


煙を吐く俺を山本の目が疑うように見遣る。


「昨夜いろいろと考えたんだけど、俺にはやっぱり甘えるとか難しいから」


だからと言って、結実の側にいればきっと甘やかしてしまう。彼女の疲れも考えずに、きっとまたベタ付きたくなる。


「俺がいない方が結実の為になるならそうしたい。少しの間でいいから置いてくれよ」


「浬!」


「頼む」


煙草の先を灰皿に押し付けて頭を下げた。
奴の目線を頭頂部に感じながら話を続けた。


「少しの間だけでいいんだ。頭を冷やす期間をくれ」


誰にでも頼めることじゃない。
大学からの友人のこいつにしか頼めないことだ。