そんなふうにならないようにしたい。
今の私は疲れてるけど、彼のことを嫌いだから疲れてる訳ではないんだから。


営業部に着いてゆっくりとブースの中に視線を向けた。
左手の商談スペースには、白い長テーブルとオレンジ色の椅子が整然と並んでる。

今日も幾つか商談があったっけ。
昨日みたいに逃げださないようにしないと、また津田ちゃんに心配をかけてしまう。



「あ……」


チームの島がある方へ目を向けて声が出た。
私の席に彼が座ってる。



「天宮さん…!」


カッカッカッ…と足音を立てて近付いた。
私の椅子に座ってた彼が顔を上げて、躊躇うような笑みを浮かべる。




「…おはよう」


立ち上がった彼が私の顔を見て言った。
こっちは何だかバツが悪くて「おはよう…」と小さい声で返すだけになった。


「…………」


「…………」


お互い沈黙してしまう。
いつもの天宮さんなら直ぐにでもベタついてきそうなのに一向に側にも寄って来ない。


「…な、何してたの?」


デスクから離れない彼に向かって尋ねたら、「あ…」という感じでデスクから逃げた。


「別に何も。結実が来るのを待ってただけ」


席を離れてこっちに来る彼にドキドキした。
きちんとスーツを着こなした姿を目に入れると、やっぱり素敵だな…と改めて思う。