「えーん、山本さーん!」


抱き付く理由にしたでしょ!
それもこっちはお見通しなんだからね。


「ヨシヨシ泣くなよ」


だーかーらー、甘やかすなって言ってんだけど?


「もういいです!その商談は私がやります!」


この社員に任せてたらメーカーの思う壺にハマりそうだ。
売れない商品を押し付けられて、後から大変なことになりそう。



「部下から仕事を奪うのか?」


山本さんが唖然とした表情で聞き返してくる。


「だって、彼女に任せてたら上手くいかないと思います」


「だからって仕事を取り上げるのはナシだよな。あんたの旦那はそんなことをしてたか?」


「天宮さんが旦那さんなのは家だけのことで、ここでは他部署の社員です!」


あーもう、血圧上がることばっか言うな、山本さんは。


「じゃあ言い方を変えるよ。前リーダーは部下の商談が上手くいきそうにないというだけで、仕事を取り上げるようなことをしたか?しないだろ?」


「ぐっ…」


「あいつは忍耐力だけは半端なくあるから、絶対にそんなことはしなかった筈だ」


「うっ……」


ーーそれは確かにしたことはないと思う。
私が異動したての頃も、上手くいかなくてもいいから商談をやってみろと言われた。



「確かにそんなことしなかったですよ。でも、私はリーダーとして心配で…」