側を通り過ぎながら釘を刺した。
ギクッと背中を伸ばす彼女と目が合い、フッと笑ってやった。



「どうしましたか?」


「…あ…い、いえ…」


メーカーの担当者に聞かれ狼狽える。
俺との距離にまだ慣れてない結実の初々しさが可笑しくて、妙に心を擽られる。



(あのギャップに萌えるんだよな)


オフィスでは商品を切り捨てる仕事人。
外では初々しくて子供っぽい女。



(今夜も蕩けさせてやるか)



結実を俺の虜にしてやる。
その為に俺はプロポーズをしたんだから……。



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「…はぁ…」


「お疲れ様です」


目の前に白い紙コップが置かれる。
芳ばしい香りが鼻を抜け、湯気が薄っすらと立ち上っている。



「ありがと。津田ちゃん」


紙コップを置いてくれた後輩を見上げた。
パールピンクのルージュを塗った津田ちゃんは口角を上げ、ニコッと笑って見せた。


「いいんですよ。コーヒーくらいでお礼なんて言わなくても」


商談ブースのテーブルの向かい側に付き、二人でゴクンと飲み込む。


「それにしても、やっぱりでしたね」


津田ちゃんが両手にコップを持ったまま呟く。
うつ伏せるような格好でそれを聞いた私は、「何が?」と彼女に問い直した。


「雨宮リーダーは、田端先輩を愛してた…ってことですよ」