「ちょっと待って。何のことだか理解出来ない」


彼の腕から少し離れ、間を空けて見据える。


「浬さん…不妊症なの?」


子作りしてもできなかったのはその所為?
私が原因じゃないの?


「……そうじゃない。俺じゃないんだ…」


囁く言葉に首を傾げる。
私から腕を完全に離した彼が、背もたれに背中をくっ付けるようにして深い吐息を漏らした。



「同期の藤井がさ…」


「藤井さん?」


山本さんと同じ同期入社だと教えられた藤井基(ふじい はじめ)さんの顔を思い出す。
人の良さそうな感じで、愛妻家だと聞かされてる。


「彼がどうかしたの?」


浬さんと同じ人事部で働く藤井さんも今日の歓送迎会に参加していたそうだ。


「あいつんところ、なかなか子供が出来ないと言ってたんだよ。結婚して五年は経つんだけどね…」


披露宴に出席してくれた時には、そんな話をしてないから知らなかった。
そうなんだ…と初めて知り、「うん…」と頷きを返した。


「あまりにも出来ないから、この間産婦人科へ行ったんだって。夫婦ともに検査してみたら、出来ない原因が自分の方にあったらしくて…」


「…えっ」


驚く私に視線を流し、浬さんは切なそうな表情を見せた。


「女性の方に原因があるよりもタチが悪いみたいなんだ。それであいつ、この最近かなり落ち込んでるんだよ」