ケトルからシュンシュンと沸き出る湯気を確かめて火を消す。
フタを開いて蒸気を一瞬飛ばした後、ドリッパーにセットした紙フィルターに入れてるレギュラーコーヒーの粉の中にゆっくりと注いだ。

最初は粉全体を湿らすように。その後二十秒程蒸らしてから一点に的を絞り、お湯を注ぐ。

湧き上がってくる泡を消さないように注意して、そぉっと、そぉ……と。



「結実」


名前を呼ばれたと同時に後ろから抱き付かれてビクつく。
思わずケトルが揺れて、フィルターの外にお湯が飛び散ってしまった。


「あーあ、もう…」


一点集中して注いでたのにパー。コーヒーの泡が潰れてしまったじゃない。


「浬さん、驚かすの止めて」


後ろを振り返ろうとしてもぎゅっと抱き付いてるから振り返れない。
「ごめん」と謝りながらも、その唇は耳の後ろを吸っていく。


「…っや……やめて…」


そこ弱いんだってば。
足元から力が抜けていきそうになるから止めて。

腰の辺りがゾクッとする。
朝からこんな積極的な彼は珍しい。


「かい…り…」


背筋までゾクゾクとした快感が込み上げてきて、思わず彼の名前を呼び捨てる。

後ろから捲られた上着の中に入ってきた指が、ツン…と敏感になった部分に触れた……。


「…ケトル離さないと危ないよ…」


その前に胸に当ててる手を離して欲しいんだけど。