「うわぁ見て見て!露天風呂付き!」


仲居さんに通されて部屋の中へ入ると、ベランダの向こう側に小さな露天風呂が見えた。


「…結実、子供じゃないんだから」


燥ぐ私に呆れる彼を振り返る。案内してきた仲居さんまでが笑ってて、流石に大人気なかったか…と肩を竦める。


「本日のお夕食は七時半からでございますね。それまではごゆっくりお寛ぎ下さい。裏手には遊歩道もございますので、散策を楽しまれる方もいらっしゃいます。この時期なら上流の八重桜がまだ咲いていると思いますよ」


ほうじ茶を淹れてくれた仲居さんの言葉通り、二人で遊歩道へ向かった。

「カトー研究所」での出来事から二週間後の週末、私達は津田ちゃんがオススメする温泉へと来てた。

遊歩道の脇を流れる小川は清らかで底の石も見えるくらいの透明感。チョロチョロと聞こえる水音にも癒されながら開放感に浸りきった。



「癒されるね」


新緑を眺めながら息を吸い込む。
「オススメです」と、津田ちゃんが太鼓判を押すだけのことはある。
お風呂付きの部屋もキレイな川も、普段の生活には無いものばかりだ。



「こんにちは」


川上から歩いて来る老夫婦に挨拶された。



「こんにちは」

「いい気持ちですね」


擦れ違いながら声を返すと、老夫婦は私達を見て微笑む。
「懐かしいわね」と囁く奥さんの声が聞こえ、ちらっと後ろを振り向いた。