「悪い。ごめん」


天宮さんは肩を竦めた。


「いいよ。許す」


喜ばしいことが先に待ってるってことだから、それを怒ってはいけない。


「サンキュ」


嬉しそうに笑う顔を見ながら、やっとホントに厄が明けたような気がしてきた。
これまではずっと疲れきってて、自分の劣等感としか向き合ってこれなかった。



一年後には念願が叶う。
この家で、彼の帰りが待てるんだ。


ホッとしたら視界が霞んだ。


「あれ…?」


ぼけてくる視界に、声を漏らすと…。



「結実…」


斜向かいから手を伸ばし、彼が目を擦ってくる。
指先が濡れてるのを見て、自分が泣いてるんだと気づいた。


「どうして泣くんだ?」


心配そうに聞かれ、どうしてだろうと思い悩む。
リーダー職をするのも一年間だけだと分かったし、退職すれば願うような生活が待ってると言うのに。


「何でだろう。分からない…」


箸を置いて涙を拭う。
それでも、後から後から零れ落ちてくる。



「…結実」


流石に気になったらしく、食事する手も止まった。


「ごめんなさい…何だかホッとし過ぎて…」


それ以外に思い浮かばない。
いろんな意味で疲れてたから、急に負担が軽くなったんだ。


「ホントに子供みたいな奴だな」