「定年?」


サクッとかき揚げを噛み切る彼に聞いた。


「うん、人事課長がね」


モグモグとかき揚げを噛んでる人を見て、自分もご飯を箸で摘む。


「結婚するんだと人事部に話に行ったらそれを聞かされてさ。『後釜として人事部へ来ないか?』と部長の榊原さんに誘われたんだ。一年間はヒラに戻ることになるけど、その間、結実を家で迎えてやれるからいいなと思って引き受けた」


実情は話せなかったけど、山本さんに「ヒラにして貰おうかと思ってる」と言ったらビックリされ、「お前みたいになんでも出来る奴が何言ってんだ!?」と呆れてたそうだ。


「だけど、思ってたよりも仕事をさせられてるよ」


苦笑する彼に、「それは当然でしょ」と答える。


「でも、それはつまり、来年度は課長に昇進する…ってことなんでしょ?」


「うん。まぁそう」


平然とした顔してるけど、管理職になるってことじゃん!


「スゴい…」


「そうでもないよ。大変になるんだから」


それで、この一年間はノンビリするつもりでいたらしい。
実際のところはノンビリもしてなくて、家事も完璧にこなして忙しくしてたけど。


「…それ、もっと早く教えて欲しかった」


「黙ってた方が昇進できた時に喜ぶかな…と思ったんだよ」


「要らない気遣いよ」


ぷくっと頬を膨らませる。