「お礼なら雅也に言ってくれよ。あいつが気を利かせてくれたお陰で助けに行けたんだ。
社を出る前に人事部長と出会って、営業でトラブルがあったから俺を貸して欲しいと頼んだそうだ」


そんなことでもなければ、自分は新人研修の講師をしてるところだった。
だから、明日出社をしたら口裏を合わせておくように…と言われ、コクンと首を縦に振った。


「…私、山本さんを誤解してたのかな」


玄関先で靴を脱ぐ彼を見遣りながら呟くと、スリッパに履き替えた彼が、不思議そうに「ん?」と振り向く。


「だって、イヤミな人だと思ってたの。私のことをデキない上司だと言ってたし、悪妻とも言われたし」


それは事実だから否定もしないけど、天宮さんを合コンに誘ったり、帰りたがるかな…と、意味深な言葉を漏らされたりした。


「嫌われてるんだろうなぁ…って、ずっと感じてたんだけど…」


私の話を聞き、天宮さんはクスッと笑う。


「あいつ、口が悪いからな。前の部署でも上司に楯突いてたようだったし、人間関係を複雑にして面白がる変な癖もあるし」


いつだったか、異動してくる山本さんを気にしてる雰囲気があった。

それはもしかしたら、同じように私にも楯突くんじゃないかと思ってたのかもしれない。


「そう言えば合コンに誘われてたんでしょ?行ったの?」


思い出したように聞けば、ギクッと顔を強張らせる。