おはようからおやすみまで蕩けさせて

「雅也」


前を振り向かずに天宮さんが山本さんを呼んだ。


「分かってる。お前ん家にタクシーを誘導すればいいんだろ」


助手席の彼が運転手さんに住所を教える。
後ろから二人を見てた眼差しは、天宮さんの手によって遮られた。



「他の男なんて見るなよ」


近寄ってくる彼の体温にドキッとしつつも、「うん」と声を発しようとしたら……



甘いキスが降り注いでくるから言えなくなった。

絡む舌の音が二人に聞こえるじゃないかと思うと、息も吐けずに彼に合わせた。


タクシーを降ろされた後、狭まる胸の苦しさを覚えながらマンションの部屋へ戻り、今夜は初日に食べた物と同じ料理を作ろうと決めた。



「その前にこのスカートを脱がなきゃ」


ファスナーを下ろし始めてハッ…とする。


(そうだ。彼には足を見せても良かったんだ)


ファスナーを上げ直してから掃除機をかけた。
綺麗になった部屋であったかいご飯を作り、明かりの灯る家で彼の帰りを待つ。


それが何だか新鮮で嬉しい。
やっぱり、これが本当に望んでた夢だ。


リーダーの動きも見えてきたけど、家庭の主婦に収まりたい。
彼以上の主婦にもなれないと思うけど、この家で彼の帰りを待ちたい。



「今夜話してみよう」


天宮さんは反対するのかな。



あれこれと答えを予想せずに過ごした。

彼が帰ってきた時にいい笑顔で迎えようと誓った……。