助けてに来て欲しいとは願ったけど、誰にも此処へ来るとは言わなかったのに何故ーーー。


「あ…まみやさ……」


振り向いた人はまだ怒ってる。
いつもは目尻を下げて笑う顔が厳つくて、さっきのことよりも怖いと感じた。


険しい表情をしたまま彼が近寄る。
振り上げられた腕を見ながら、咄嗟に(叱られるっ!)と思った。


ぎゅっと目を閉じて肩を竦める。
頭の上から降ってくるであろう怒鳴り声と手を覚悟しながら俯いた。



「バカ野郎、そんな格好でウロつくな!」


言葉とは正反対の優しい声が降り注ぎ、スッポリと頭が抱え込まれる。鼻と額とがスーツの生地にぶつかって、擦れるような痛みを覚えた。



「……良かった。間に合って……」


安心したように深い吐息混じりの声が届く。
戸惑いながらも、やっと安心感に包まれたーーー。



「………っ…」


ぎゅっと背中に腕を回しながら彼の存在を確かめる。
たった二晩こうしてなかっただけなのに、彼のことが懐かしくて仕方ない。



「…っふ……く…っ……」


安心したのと同時に、涙がせり上がってきた……。
声を殺すように泣きだす私を、彼の腕がしっかりと抱き留めた。


何事もなかったけど恐ろしかった。
天宮さんとは違う腕の感触が、こんなにも怖いものとは思わなかった。



「結実……」