このケダモノを何とかして。
こんな人に触られるのもヤダ。


お腹の底から声を振り絞った途端、応接室のドアが開いた。

山瀬さんは驚いて振り向き、自分も同じように目を向けた。




「結実!」


息を切らして入ってきたのは、私の大事な旦那様だ。
お気に入りのグレーのスーツを着て、肩で息をしてる。



「離せよ!」


部屋に入ってきた天宮さんは山瀬さんの腕を掴み、もう一度「離せ!」とドスの効いた声を出した。



「パワハラかセクハラで訴えるぞっ!」


響く怒声に山瀬さんの顔色が変わる。
普段は穏やかで怒らない人が、頬を上気させ怒ってる。


「や、やだなぁ。ちょっとした揶揄いのつもりですよ」


手首を離しながら山瀬さんはふざける様に言い訳した。
チッ!と舌を打つ天宮さんを、私は信じられない気持ちで見てた。


「天宮さん、さっきの件はこちらで700個ほど引き取りますよ。残りはそちらで何とかして下さい。そうでないと僕も上司に報告しないといけないんで」


睨みを利かせる天宮さんにちらっと視線を走らせ、「では…」と応接室を去って行く。

その背中を彼が目で追う。
今気づいたけど、ドアの外に山本さんも居る……。



「あ…あの……」


恐怖が去った後の安堵よりも、二人がどうして此処に居るのかが分からない。