自分で言うのもなんだが、私の家はみなハイスペックな人たちばかりだ。
「姉や兄たちは小さなころから有名人だったし、父や母も世間に名を知らしめているような人たちだから。」
それがその理由だった。

私もそれなりの能力は一般人より高いし、腰まで伸びるコバルトブルーのサラサラヘアーに、すらっとした足、身長は小学生のころから170センチあった。筋の通った鼻に、ぱっちりとした大きな目。薄い唇。姉には劣るが普通に美人な方だと知っていた。

だが、皆が聞けば「いいなぁ」と思うこの家庭環境を私はいいと思ったことは1つもなかった。

なぜならそれはゆがんだ愛情を向けられたからだった。
知り合った友達は皆姉や兄たちのファンで、私に向けられた興味ではなく、私の「兄姉」に向けられたものだったから。
よく尽くしてくれる先生は親の評価目当てか私の家柄目当て。
ゆがんだ愛情は年を紡ぐたびにエスカレートしていった。
それに私は兄や姉のようにスペックは高くなかった。
だから、親にも評価されなかった…というか、ないものとして。存在しないものとして扱われてきた。都合の悪いことが起こるたび父は私を打った。母もそれを見て止めようとはしなかった。兄や姉も傍観し、またかと顔をしかめた。もはやいえ私の存在する場所など存在しなかった。死ねば楽になると思ったこともある。これっぽっちの人間いなくなったって社会に影響を与えるわけもないし、それが一番早いと思った。けれど、リストカットをした私の腕を翌朝見た父からは驚きの言葉が零れた。
「役立たず。」
父はそう吐き捨てると、ネクタイをしめて出勤した。その時は泣いた。泣いたところでそんなもの解決できるわけでもないし、現状は変わることがないと思った。
 友達はいなかった。ひねくれたこの性格では兄や姉目当ての人も次第に離れて行った。怖かった一人がとても不安でかなしくて、みじめだと思った。
そんなこともあり、小学校卒業を機に顔も見たことのない父親の親戚の家に引っ越した。親戚のおじさんとおばさんは優しいひとだった。笑顔が似合う中年夫婦だった。「桐谷 青」という、私より高校2年生の1人息子がいた。
変わろうと思った。だから、名前も変えて、「桐谷笑(キリタニショウ)」にした。
そして…性別も変えた。ウィッグで長い髪の毛も隠した。
これが変わるきっかけになることを信じて、昔の自分を封印した。