「いか食べる?」
「…食べる。」
そんな空気を打ち破るように「ん」と、私にあたりめを差し出す。
それが変に中途半端な位置での差し出しで、
普通に受け取ったらいいのか、
それもともあーんなのか。
一瞬迷ったけど、ええい!と覚悟を決めた私はぎゅっと目をつむってそのままパク。
「……うまい?」
こくんと私はまた頷いた。
そうしてふたりしてお酒といかを食べながら、全然色気もへったくれもないその二つなのに、
飲み始めた時よりも
近くに寄ってきてる彼とか、漂ってる空気とか。
お酒を飲んでいるうちにいつの間にか酔ってるみたいに、
彼が床に這わせてる左手が私の右手に重なって、
ぱっと自然に目があったかと思うと
速水さんは私の唇にそれを触れさせた。
馴れた手つきで、私が持っているチューハイの缶を彼は取り上げて、カタンとその場に置くと
テレビの声も結構大きくしてたはずなのに、
気にならなくなるぐらい吐息が途中途中に漏れる。
次第に速水さんは私の背に手を回して抱え込むように、
「あっ速水さ…」
なんていう私を無視してそのまま床に押し倒す。
顔横に投げやった私の両手をぎゅっと彼は握って、
抵抗する間もないぐらい何度もなんども熱を這わせた。
「まって、速水さん」
余裕がなくて、私はそう彼の名前をつぶやくぐらいしか抵抗できないけど
「なに、市田。」
一方の彼は余裕そうに意地悪な笑みを浮かべて、
私の弱いところを攻めてくる。
首筋とか耳とか。
途中、さっき床においた缶がカランカランと音を立てて転がったこともお構いなし。
そうして時々私の目を見て真っ赤にさせてる私を楽しんで、
たまにふっと緩める表情とか、私にはとてもそんな余裕ないけど。
本当キスまで意地悪ってどういうことなんだ。

