「ごめん、その前に俺着替えてもい?
スーツ堅苦しくて。」
「どうぞどうぞ!
じゃぁ先に野菜とか洗ってますね。」
私はキッチンへ、彼はネクタイを緩めながらリビング外の洗面台へと向かう。
数分経って戻ってきたなと思ったら、
現れたのは黒縁眼鏡のオフモードの速水さん。
まだ恰好はスーツのままなんだけど、
「たばこすいた。」
珍しく気怠そうな呟きを漏らして、
整えてた髪の毛も若干乱雑になってて。
うーーーやばい!
ただでさえ、速水さんの眼鏡姿好きなのに。
おまけにスーツとか!
ちょっとそのダルそうな感じとか!
汚れを落としながらも、ばれない様にちらちらと視線を送っちゃう。
「ん?なんか分からないことでもある?」
そんな私に気が付いたのか、そう聞いてくる速水さん。
「いえいえ!」
いけないいけない。
ばれちゃうばれちゃう。
邪念を消し去るように、わーっと心内で声をあげながら益々磨いた。
速水さんは奥の寝室へと足を進め、スーツから上下とも緩い素材の恰好へと姿を変える。
薄手の長袖Tシャツと、だぼっとしたズボン。
黒を基調とした上に、あぁだめだ。
彼の色気がますます増してしまった。
「もう全部洗っちゃった?」
速水さんは様子を伺いに私のとなりに立つ。
ここだけのハナシ、
いま現在、私の胸内どひゃー!って感じ。
「う、うん、あとは材料をお鍋にいれるだけかな。
どれ使ったらいいですか?」
それをうまーく隠して、適当に答えて。
「どれでもいいけど、これが良い塩梅かな?」
彼はコンロ下の引き出しにしまっていたお鍋を出してくれる。
私はそこに水道の水をじゃーっと流し込んだ。
「あと俺やるよ?」
「だ!だめですよ!」
「なんで?」
そんな怒らんでもと笑いながら調味料を集めてきてくれる。
「速水さんは先座っててください。」
お疲れなんだから。
あと、まだ心臓うるさいんで。
「頼もしいね。
じゃぁお言葉に甘えて。」
「うん。」
ポンと私の頭を撫でる。
そうして、座らずに
傍で穏やかに見つめてくる速水さん。
なんか、それもそれで緊張しちゃうなぁと思いながら、私はお鍋の味付けを始めた。

