「んー……それならさ。」
「あ、はい!」
すっかり物思いにふけていた私も、慌てて耳を傾ける。
「行っちゃえば?
家。」
「え?」
それは反射的に口から出た。
つぎに私は目を二度パチクリ。
そんな私に気づいてるはずなのに、お構いなしに質問をつづける彼女。
「彼の家知ってるよね?」
とりあえずこくんと一度。
「マンション?アパート?
部屋番とか知ってる?」
また声も出さずに頷いた。
「じゃぁ行っちゃえばいんだよ、断りもなく!」
「ええ!」
そこで声がようやく出た。
いや、出せたというべきかな。
それぐらい品川さんがくれたアドバイスは私にとって突拍子もないこと。
ところがそんな私でさえも想定範囲内のようで、
「ゼッタイそんなの迷惑がられるって思ってるでしょ?」
なんて笑顔を浮かべながら追随される。
もちろん、答えは
「イエス。」
「市田さんって正直だよね。」
また品川さんは笑ってる。
「だって、自信ないですもん。
下手したら気持ち悪がられそうですし。」
「んー?
一応聞いてみるけど、市田さん普段わがままは言ってるの?」
「いや、言ってない方だと……、」
「じゃぁ、お家は?
彼の家に行ったことあるぐらいの仲なんだよね?」
「……うーん、まぁ」
そうなのかなあ。
速水さんの家に行ったことがあるのは、前に長嶋さんとお見舞いに行ったことがあるから。熱を出して休まれてたから看病にね。
あぁでもそうだな、その時も私が無理をしたんだっけ。
速水さんに渡さなきゃいけないものがあるからってわざわざ嘘をついて、長嶋さんについてって―――。

