彼女に、相手が速水さんだってことを伏せてオブラートに、大まかなことを説明する。

「そっか、会えなかったんだ。」

「仕事が原因なんですけど……。」

「そうだったの、それは残念だったね。
あんなに楽しみにしてたのにね。」
 こくんと下を向いたまま頷く私に、
彼女は子供をあやすかのようによしよしと頭を撫でてくれた。


「もっと早くに話し聞いてあげればよかったね。

わたし先週忙しかったから、
早く帰らないといけない日も多かったし。」

「体調悪かったんでしたっけ?
お子さん。」

「そうそう。」
 ごめんねって、品川さんが謝る義理なんてこれっぽっちもないのにね。


「埋め合わせとかは?」
 私はふるふると首をふる。

「そっか……。」

「というか、ダメになっちゃった以来、メールもまともにできてなくって。」
 会話という会話ができてないんだよな。連絡できたとしても、そのたびにぶつりと切れちゃう感じだし。

業務連絡というか、お互い言いたいことと聞きたいことを、
単発でただ呟いてるだけみたいな。


「向こうが忙しいから仕方がないんですけどね……。」

「まぁ男の人にとって仕事は一番だからね。」
 難しいねと同じように眉を悩まし気にさげる。


「でも連絡ないだけなら、まだ我慢できるんですけど。」

「ん?」
 小首をかしげた彼女に私は目を合わせた。


「何か、どうやらは……」

 ってやばい。
調子乗りすぎた。


今、わたし、思わず速水さんって言うとこだった!


首をかしげてる彼女に

「は、腹をたててるというか!向こうが不満気にしてて。」
 と慌てて誤魔化す。


幸いなことに何も疑われることなく、

「あーなるほどね。
不満な理由も分からないから、また困ってるんだね。」
 と言葉通り受け取ってくれた。


まぁ品川さんならばれても大丈夫だとは思うんだけど、

この会社で、自分ひとりだけが私達のことを知ってるなんて、拷問に近いことさせてあげるのは申し訳ないからね。(私だったら、口を四六時中うずうずさせちゃうだろうから)