「今日は本当にありがとうございました。」
 アパートの駐車場。

助手席から降り、運転手側に回った私は彼にこの日のお礼を告げる。


「夕食も結局ごちそうになってしまって……」
 そう同時に、一銭も出させてくれなかったレジでの光景も脳裏に思い浮かべていた。


―――速水さんが提示してくれた、3つの中から私が選んだのはパスタ。

お寿司も最近食べていなかったから特にその2つで悩んだのだけれど、それでもパスタを選んだのは、先日テレビで見たパスタ特集が関係しているのかもしれない。

まぁパスタだけじゃなくて、ピザとか豪華なデザートも頼んじゃったんだけど…。
それも、速水さんがいつの間にか会計しててここでもおごりという……。


「おいしかったんだろ?」

「そりゃもう!」
 パスタはミートが濃厚で!ピザはチーズがとろんと!

「ならそれだけで俺は満足。」
 私を納得させるように速水さんは優しく微笑んでくる。

けど……

「あの、でもやっぱりすっごくご馳走になっちゃったんで、今からでもお代を払いたいんですけど…」

「帰るぞ、そしたら。」
 全開にしている運転手席の窓を速水さんは一段あげた。

まるで意地でもお金は受け取りたくないとばかりに。


「もう…」
 分かりましたから、窓開けてくださいと仕方がなしに頼む。
満足そうに彼はうなずいた。


「疲れた?」

「うーん、どうでしょう。
緊張疲れしちゃったかもです。」

「なんだよ、緊張疲れって。」
 ふふふっと私は笑う。