「もう映画の方行く?いつの間にか時間経ってる。」
 そのまま携帯で時間を軽く確認する速水さん。

「あっ、じゃぁ…」
 こくこくと私は何度か頷く、

「市田ちゃん、まだ照れてんの?」

「う、うるさいっ!」
 そう耳にぼそっとからかいを落としてきた速水さんをとりあえず無視して。


「向こうですよね?」

「うん、だね。」
 再び3階へとあがり、エスカレーターからシアターまでは距離にして200メートルぐらい。

ってそれはちょっと言い過ぎかもだけど、
ここから一番離れたところにあるのは確か。

雑貨屋さん、コスメなども3階にちらほら見えるなか、いろんなショップの前を通り過ぎてメイン通路をひたすら歩いていく。

周りががやがやしているせいか、速水さんは特に話しかけてこない。


ただ、手はぎゅっとつながったまま

―――速水さんの手、冷たいや。
何も言ってこないのをいいことに、何気なくきゅっと私は握り返した。


すると、

あっ。
それに反応するように、速水さんもぎゅって力をこめてくれる。

ふふふっ、意識的にじゃないと思うけどなんか嬉しいな。

えーい、もう1回握っちゃえ。
またまた私はぎゅって手に力を籠める。


と、


「何にやにやしてんの?」

「うへ!」
 いつの間に顔を見られてたのか、速水さんが急に私に声をかけてきた。

「なに、その反応。」
 続けてくすくすと笑い始める。

「だ、だって!」
 急に話しかけてくるから!
あわあわしながら言葉を返した私を見て、ますます笑う彼。

「うへだって。」

「も、もう!」
 すぐからかって!

「はいはい。手、つなげて嬉しんだよね。」
 きゅっとまた速水さんは私の手を握りしめる。

そうしたらおとなしくなるって速水さんは分かってるみたい。

「うー。」
 いつの間に私の扱い上手になったんだよ。

それでも頬が緩んでしまっているのを自分でも感じながら、
きゅっとまた手を握る。


 ついにお目当てのシアターに着き、映画を見ている間はさすがに手を離していたが、2人で1個頼んだポップコーンをとるときにはたまに手が触れて、繋いでいる時よりも逆にどきどきした。