と、そこで、


「あ、いた。」
 内川くんじゃない誰かの声が私の耳に入ってくる。


「探したぞ。」
 続いてその人が発した声で誰だかすぐに分かった。

「お疲れ様です。」

「…お疲れさま。」
 変、じゃなかったよね?

今の言い方?
その人が若干詰まらせながら言葉を返してきたから変な緊張に襲われる。


「どうかしましたか?」
 内川くんはその人に尋ねているというのに、なぜかちらっと私の顔を盗み見てきた。

「え、なに?」
 不信に思ったが、聞き返す暇もなく内川くんは速水さんと会話。

しかもすっかりタイミングを失ってしまった私は、たとえふたりの会話が終わったって、何で変に見てきたのか理由を問うことができないだろう。

内川くんは何か知ってそう…なんだよね。

たぶん速水さん絡み関係で。


速水さんは内川くんに、私のことを話していないって言っていたから、付き合ってることを知ってるとかそういうんじゃないとは思うのだけれど、結構前に速水さんのことを含ませたからかいをしてきたことがあるのも事実……。

気になるなぁ。
今度また問い詰めてみようかな。


 ふたりの様子を横目に、冷蔵庫からお茶を取り出す。

ぶつぶつぶつ、お仕事の話を繰り広げているその人と内川くん。

節目がちな目とか
たまに動く右手とか、

悩んでる表情―――やっぱり仕事してる姿って、恰好いい。


そうやって、知らず知らずのうちにじっと私はその人を見てしまっていたみたいで、

「……市田、どうかした?」

「へ!?」

「いや、そんな見てくるから。」
 と、視線に気が付いた速水さんが突然私に声をかけてくる。いつの間にか内川くんも振り返って私に視線をやっていた。

「いえいえいえ!何もないですよ!
お話し続けてください!」
 胸の前で両手をブンブン振って、何もないことをアピール。

「ならいいけど。」
 その人は口の端を緩めるとすぐに内川くんとの話に戻った。


嫌らしい笑み浮かべてくれちゃって。
その仕草で彼の心情が分かった私はぼそっと心内でつぶやく。

私が話したがってないって分かってたのに、相変わらずずるい人だな。


そりゃじっと見つめちゃった私が悪いのかもだけど。