乗り込んですぐだった。



「誰が仕事のことで頭がいっぱいだって?」



「え!?」
 速水さんは思いっきり意地悪なカオで私をみる。


それは、帰るとき私が長嶋さんに言ったセリフ。飲み会を断るための、いわゆる口実でついた私の――――でも、なんで?


え?速水さん。


「き、聞いてたんですか?」


「うん。
ちゃんと誤魔化せれるのかなって心配でもあったし。」
 気づかなかった?
俺、デスクで仕事してたんだけど。




「いや、そんな大きな声で話してなかったですし…」
 まさか聞こえてるなんて。


「市田のこと大好きだから、
聞こえちゃったみたい。」


「…いまそーいうのいいですから。」


「ハハハっ。」
 ごめんごめん。
謝りながら、機嫌をとるように私の頬に軽く触れる。




「でもまぁ……余計な心配だったね。」

「なにがですか?」


「んー?」
 ピタッと彼の手が止まる。



「下手したら断れないんじゃないかと思ってたから。
それが、するっと嘘をついて。



いつの間にそんな悪い娘になったのかな?」
 口の端を緩めながら、覗き込んでくる上目遣い―――悔しいけど、なんでだろなんでだろ。


「っ。」
 どきどきがたまらないです……!

思わず反らした視線も、

「なに逃げてんの。」
 それすら見逃してくれずに、彼は私のほっぺをむぎゅっと掴んで、向き直させる。


「うぅー…」
 ばかばか。
ゼッタイ速水さん、かっこいいって自覚してる。


「う、嘘は言ってないです。」
 とかっていったから、仕事のこと“とか”って!!!


「まぁそんなことどっちでもいんだけど。」

「は!?」


「……貰ってい?」
 彼は私の唇に優しく触れる。

え?
そんないきなり?

いやいやいや、だ、だれか見てますってーーーー!?



「コーヒー飲みたかったんだよね。」


「ふぁ!?」
 私の手中から、コーヒーをとるとくぴっと飲む速水さん。


「期待した?」


「も、もう!!
速水さん!?」
 彼は笑いながら車を発進させる。