「市田ー、もう上がりか~?」

「はい、終わります!」
 終業時刻から約30分経った時だった。


 長嶋さんが、身支度していた私に向かって言葉を投げかける。


 既に帰宅している人は何人かいて、
私の部署で残ってるのは私と彼と、

田中さんとあとひとりぐらい。



 どうやら長嶋さんと田中さんは今日飲みに行かれるらしく、


「市田よかったらどう?」
 つづけて私にお誘いをかけてくれた。



「あ……っと、来週…いや、再来週でもいいですか?
仕事のこととかでいっぱいいっぱいで。」
 別に嘘はついてない。

それも本音。
まぁでも、速水さんと一緒に帰るなんて言えないのも本当。



「うんわかった、じゃぁ再来週な。
お疲れ。」
 先に帰っていくふたりの後ろ姿を、笑顔で見送る。


 数分たって、私も帰る用意ができたので挨拶を終えると階段をかけ降りた。



携帯を確認して、速水さんに連絡。


今日は私のが早く終わるから、
また本屋で待ち合わせだ。



そろそろいい加減、店員さんにばれてしまってるんじゃないかと思う。


待ち合わせにここを使ってるって。
毎週のように決まった時刻、ここにくるのだから。


「ついたよ。」
 立ち読みしながら来た通知に、本をバサッと置きながら私は店を出る。


丁度、外の自動販売機で買った缶コーヒーを手に、


「お疲れ様です。」
 私は彼の車のドアを開けた。